嘘つきアーニャの真っ赤な真実
- 作者: 米原万里
- 出版社/メーカー: 角川学芸出版
- 発売日: 2004/06/25
- メディア: 文庫
- 購入: 27人 クリック: 141回
- この商品を含むブログ (189件) を見る
※10年前くらいに書いたレビューの転載
米原さんは、小学3年~中学2年の7年間を当時のチェコスロバキアの首都プラハにあったソビエト学校で過ごしました。
そこには色んな国の人たちがいて、この本ではまりさんがそこで知り合った友達との話が描かれています。
ギリシャ人だけどギリシャに行ったことがなかったリッツァと、ルーマニア人で、ルーマニアにただならぬ愛国心を抱いていたアーニャと、旧ユーゴスラビア人のヤスミンカ。
みんな故国の事情、民族とか社会主義とか、宗教とか、色んな事情を抱えていて、日本に住んでいる私は考えたこともなかった、愛国心を強く持っている。
私は今までこの、東欧と呼ばれる地域の人たちや歴史のこと全然知らなかった。この本には東欧に住む具体的な人物と政治の状況や歴史的民族的背景が万里さんの言葉で描かれている。だから、とても身近に感じながらこの地域について学べたような気がするよ。
どの話も後半は米原さんが大人になってから、昔の友達に会いに東欧を訪れるんだけど、友達を探す過程はスリルがあって、再会の瞬間はほんとに感動的。異文化圏に涙を流して再会を喜び合える友達がいるって素敵だな。
本の題名にもなっている「嘘つきアーニャと真っ赤な真実」の項は、考えさせられるところがたくさんある。
「白い都のヤスミンカ」は、ユーゴスラビアの紛争だとか、民族の違いとか。(文章にできない!)もっと知りたいな。ヤスミンカって名前、かわいいね。ジャスミンって意味らしいよ。
「リッツァの夢見た青空」は、なかなか面白いね。万里さんは、シモネタを必ずどっかに入れてくるw
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
転載おわり。
米原さんはエッセイが多いけど、これは小説っぽく書かれているから好き。
タイトルもとっても好き。
この本は手放さずのそばに置いときたいな。(2015年 記)
(ここから2016年 加筆)
米原さんがこの3人の友達に会いに行くドキュメンタリーがあると聞き、Youtubeにあったので見ました。
その後で改めて「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」の項を読んだ。
アーニャという名前に親近感が沸いていたことや、「嘘つき」の「真っ赤な真実」っていう響きに魅せられていたけど、
改めて読むと「旧友に会えて良かったね~いい話だったな~」ってな脳天気な感想では締めくくれないものがある。
話の中にも出てくるけど、
人は自分の経験したものをベースにして物事を想像する。幸せな経験しかしていないひとは、辛い生活をしている人についても脳天気な想像力でしか慮ることができない。
ルーマニアの社会主義体制崩壊時にその場にいなかった、プラハの春鎮圧時にもプラハにいなかった、万里さんがそのように本の中で綴っていた。
私はその時点で産まれてもいないので、万里さんの言葉を通して想像することしかできない。
今のルーマニアがどうなっているかはわからない。でも、ルーマニアにそういう時があったことを、この話を読んで知ったから、いつか機会があれば、行ってみたいと思った。
ドキュメンタリーの中で万里さんが言っていた言葉。
歴史の本では一行で済まされてしまうような出来事。その出来事の背景に、たくさんの人の思いがある。そういうものを想像したり思い出したりするために、文学はあるのではないか、と。
(内容は私の記憶を元にしてるので正確なものではない)
社会主義とか共産主義とか、確かに歴史の教科書ではさらっとしか出てこない。
結局崩壊したんだなと、その一言で片付けることができるし、崩壊したと脳に刻みこむけども、その時に人々の生活がどの様に変わったかまでは学ばないし、想像しない。
ルーマニアへの愛国主義的な発言をしていたアーニャ、つく理由のよくわかならい嘘をついていたアーニャ、万里さんにとって不可解だったアーニャの行動の真実が、35年後に解き明かされる。解き明かされたところで、すっきりするわけでもない。そこにも矛盾が孕んでいる。それでも、万里さんにとってアーニャは大切な旧友なんだな。