きみのためのバラ(後編)
後半の四編は、
人生の広場
20マイル四方で唯一のコーヒー豆
きみのためのバラ
です。お話の中心となる場所はヘルシンキ、パリ、カナダ、メキシコ。
後半の4つはすべて私が行ったことのない国でした。
なので、それぞれの場所の描写を読みながら、いつか行きたいな~と想像しながら読みました。池澤夏樹の文からは、その国独特の空気が伝わってくる。
ヘルシンキの寒い、静かな空気。
パリは、人々が自分の生活を大切に過ごしている雰囲気。
カナダの北の方の曇り空に覆われた寒そうな空気。
メキシコの乾燥してて太陽が照りつけてる感じの空気。
そーゆうのが伝わってくるから、実際に行ってその空気を感じたいなと思う。
4つの中では、人生の広場が好きだった。
だれにでも人生に1度は、立ち止まって考えたくなる時が来る。
パリの広場は、広場を中心にして放射状に道が伸びている。
人生の広場で一度立ち止まって、どの道を進むか考える。
そういう時間があってもいいんだ。
だれにでもそういう時間が必要なんだ。
私の人生の広場はこれからかな。
大学時代はいろいろやりたいことあって、一人暮らし始まってバイトもして
時間もたっぷりあって、行動範囲も広げられて、
いろんなことを自由に考えることができた。
あの時間もある意味、人生の広場だったのかな。
すべて読み終えて、この短編で池澤さんが言いたかったこと、全ての編に共通するテーマってなんだろな?と考えた。
解説(鴻巣友季子さん)を読んだら、
・言葉の不在
・人々の寄り添いと孤独
・諸言語を越えた平和への祈り
というテーマが書かれていた。なるほどな~さすが評論家だな~。
私(達)は孤独から逃れたいと思ってる。
他者から受け入れられたいし、理解してもらいたい。
他者を理解し、理解してもらうために言葉があって、
コミュニケーションとろうとするのに、
うまくいかないことがある。
そして、やっぱりひとりの方がいいや、ひとりも悪くない。
そんな考えに行きつく。
そしてまた時間がたつと一人は寂しいと思うようになって、
誰かを求めたりする。
誰とも言い争わないで、わかり合いたい。
でもそれはたぶん無理な話だ。
この短編のお話は、こういう人の思考のサイクルの、ある一点を切り取って
描いている感じ。それぞれの人が、同じサイクルのある地点にあって、
様々な国と地域で、様々な言語で(または言語を介さずに)、考えたり、苦しんだり、幸せを感じたりしている。
・諸言語を越えた平和への祈り
というのは、この本が2001年の911(同時多発テロ)の後に変わってしまった世界を意識して書かれているということだそうだ。
911前の世界と、911後の変わってしまった世界が描かれている。
911前には普通にあった日常の風景が、
911によって奪われてしまった。
そういう懐かしい風景をさりげなくいろんな話に織り込んでいる。
また、911後の厳しくなった空港のチェックだとか、列車の中の持ち主不明の手荷物だとか、911前にはなかった風景も描かれている。
(解説読んで、なるほどな~と思わされた点。)
小説家は、時代を写す鏡だと思う。
普通の鏡のように、事実をあるがままに写すのではなくて、
必ず小説家のフィルターを通して映し出される。
それに読者が気付くかどうかは別として。
こっそりと、メッセージが忍ばせてある。